2016年12月7日水曜日

2016年板鰓類研究会シンポジウムレポートその1(アカシュモクザメの飼育)

 2016年板鰓類研究会シンポジウムレポートその1

 泳げハンマー! 苦節40年の道のりと飽くなきサメ飼育魂


 レポートコラム、今回は図らずも発表者の方から前回(注:2012年シンポレポート)のご感想をいただく機会に恵まれ、ありがたいやら申し訳ないやらです。
 普段は『中の人』と会ってがっかりされるのを恐れて控えめな交流で細々やっております。科学的知見もサメ知識も浅いオッサンです。
 140人超も参加者がおられて、発表へのレスポンスがないわけはないので、私のレポートする意味もずいぶん薄れてきたように思えます。
 すでにこのサイトは『オワコン』だと。

 なので、あまり期待されませぬようにお願いいたします。
 さて頭から順に…と行きたいところですが、今回はランダムにというかやりやすい演題から参ります。
 というわけで、シンポジウム午後イチの演目、第二会場ともなりました「東京都葛西臨海水族園」の発表から参りましょう!


葛西臨海水族園での板鰓類飼育展示の試み 東京都葛西臨海水族園

 葛西臨海水族園は、東京都江戸川区の荒川河口の埋め立て地に開発された1989年設立の海浜公園内の水族館です。
 バブル期のウォーターフロント開発が各地でやにわに興りましたが、その最たる例です。
 私も何度も訪れた同園ですが、敷地の広さと開放感あふれる園内の様子に、いつも圧倒されます。

ウォーターフロント再開発の象徴、水族園エントランス

 サメについては、エントランスのエスカレーターを降りてすぐの「大洋の航海者」という200tの水槽コーナーでツマグロやクロガネウシバナトビエイとともにアカシュモクザメの群泳を見ることができます。正式に数えたことはないですが少なくとも5個体以上としても、国内指折りの多さですね。 



 こちらで見られる複数個体の飼育展示は、今でこそ珍しくはなくなりましたが、やはり飼育の難しい種で水族館のサメレベルを計るにはうってつけの種類です。(ここに以前はスミツキザメというサメもいました)

 こちらのサメ飼育の原点ともいうべき、悲願であったアカシュモクザメの飼育メソッド確立にまつわるお話から、さらに飼育の難しい種類のサメを展示することへの挑戦の履歴も合わせて発表してくださいました。

 葛西臨海水族園は東京都が運営する(現在は指定管理者制度による)公園施設で、前身は恩賜上野動物園内の水族館であったそうです。動物園附設の水族館から独立する形でこの水族館構想が生まれたとのお話です。

 ※超余談ですが20年近く前、上野時代のアカシュモクザメを収めた写真が新聞に載せられた時に、さかさまであったためそれに憤慨した私が新聞社へ抗議の手紙を書いたことがあります。 (←困ったサメファンですね)
 担当部署の方が訂正とお詫びの返事をくださり、以後は海遊館飼育の立派な写真が使われるようになりました。しょうもない話ですみません。 
アカシュモクザメのいる大洋の航海者水槽(小)はいつも人気

 さてサメについても、このアカシュモクザメは40年前の当時からの飼育挑戦種で、この頃の全国的な飼育日数の平均が27日だったそうです。
 ひと月に満たないということはやはり飼育の上で何らかの問題を抱えているということになるでしょう。

 葛西臨海水族園では、この問題への試行錯誤をいくつも経てきた歴史があるのです。

 まず、アカシュモクザメを取得する環境から。
 飼育を始めた往時では、アカシュモクザメは、主に小笠原諸島の父島でコンスタントに得られたそうです。(恐らく縦はえ縄漁でしょうか)
 しかもその年生まれ(当才魚)なので、40センチという比較的サイズの小さいものだそうです。
 魚体の損傷もほぼなくかなりいいコンディションであるでしょう。
 さて捕まえたサメ、同じ東京都とはいえかなり離れた場所から水族館まで運ばねばなりません。

 まず運ぶための道具、輸送用の水槽が必要ですね。船で運ぶとして生け簀にドボンと漬けた場合、水質を維持しながらサメを安定させた状態で運ぶことは難しいでしょう。
 酸素が足りないと窒息、汚染が進むと病気や生理機能の低下、さらに呼吸のための遊泳できる広さも必要です。
 運搬の都合を考え、船舶の生け簀でなく、直接水族園へ運べる移動可能な水槽であることも必須です。

 そこで6tの円形型水槽を作り運んだのですが、アカシュモクザメは水質を維持し、運んだにもかかわらずかなり衰弱していた様子。

1m前後ながら、力強い泳ぎを見せるアカシュモクザメ


 6tの水槽を運ぶ海路はかなりの時化で(太平洋のど真ん中)、波にもまれるたびに水槽内の水も揺れ、アカシュモクザメが船酔いと壁への衝突を繰り返していたことが分かりました。シュモクザメ類は特に、頭部に感覚器官が詰まっており、目や鼻先といった生きる上で欠かせない部位もかなり突出しています。これらがぶつかり続けるとどうなるか…。急所をやられるようなものですね。

 揺れと衝突。これはタンク内の空気を確保するために開けていた隙間によるものでした。
 そのため揺れをもろに受けていたのです。上野時代の限界はここまでだったそう。

 なので、空気の層をなくし、水槽内を水で満たすことでゆれそのものを解消することに至りました。今では九州産を陸路で運ぶ方法をとられているとのこと。
 輸送の問題はひとまず解決。

 さて無事に運べたら、今度は水族園の用意する環境に馴れてもらわねばなりません。

 頭で舵を取るシュモクザメ。狭い水槽ではだめですね。200tの水槽は、子どものシュモクザメにとってはまずまずの大きさ。
 しかし、水の流れに沿う力、背く力この強さが強すぎたり弱すぎたりしてもいけません。
 流れが速いと泳ぎ疲れたりし、方向を制御したりすることが難しくなります。かといって流れが弱いと今度は、呼吸のための遊泳で常に泳ぎ続けることの負担にもなるでしょう。
 つまり泳ぎ疲れない制御しやすい流れをある程度の速さに保たねばならないということになります。
 この点をいくつも試験を繰り返し、シュモクザメにとってより過ごしやすい環境を探り当てることに成功したそうです。さらに照明についても、刺激しすぎないよう角度や強さを調整することで、シュモクザメのストレスを減らすことにも成功しました。
 文面ではさらっと書いてしまう内容ですが、恐らく多くの骸を見送る中で、日々試行錯誤を繰り返し人間の側がサメにすり寄ってご機嫌伺いをすることで、よりよい環境を見出せたことに他なりません。講演中、アカシュモクザメでは特に餌付けについては触れられてなかったのでその点は大きな苦労は少なかったのでしょうか。

 ○○したから大丈夫だという限定的な飼育でなく、どうすればアカシュモクザメが過ごしやすい環境を提供できるのか、問題を常に解決しながら進もうとする確実性の積み重ねの上に、今水族園で縦横無尽に泳ぎ回る元気なアカシュモクザメの姿が見られるのです。

 今では大阪海遊館、名古屋港水族館、アクアワールド大洗、マリンワールド海の中道、須磨海浜水族園、江ノ島水族館といった各地で、私が知るだけでも安定的に飼育できている園館がいくつも見られます。

 なので今は当たり前に見られるサメであっても、その飼育方法は犠牲と試行錯誤の連続を経て獲得しうるのだと改めて理解できました。

 飼育の現場は「生き物を生かす」という、最大の結果を残すことが問われます。
 我々観客は、ほとんどこの結果のみしか見ることができません。
 なので、短絡的な見方をしてしまいがちですが、目の前にいる生き物は例外なく人の手によってもたらされた奇跡の瞬間の延長線上にあるのです。
 そのルーツをたどるような発表は、「わがままな観覧者上等!」の啖呵のようでもありました。

 しかし、飼育は何年出来たから成功、というもではなく引き合いに出しますと、海遊館の西田館長曰く、「繁殖ができて、初めて認められたような気がする」と貪欲です。
 私もアカシュモクザメの成熟個体同士が水槽内で繁殖し、継代飼育できるようになればよいなぁと思う次第です。
 果たしてそんな日は来るのでしょうか。葛西臨海水族園での取り組みを見ていますと案外絵空事のような気がしないのです。

 他にも葛西臨海水族園は、外洋性のサメ類(ヨシキリザメ、イタチザメ、マオナガ)、深海ザメ(ラブカ、ミツクリザメ)の飼育の試みについても取り組んでおられます。もって1週間というさらに飼育の難しいこれらの種ですが、日数の記録を着実に伸ばしつつあるとのことで期待せざるを得ません。
 特に深海ザメは、深海100mの水圧を再現する圧力容器や圧力水槽といったツールでの試みがされているそうです。

 これらのサメは搬入のたびにニュースになり、それ目当ての来館者もあるでしょうから、「需要」の上に成り立つ展示なのです

 私はこの辺の子細を見分けたくていろいろ情報に触れますが、ただ気紛れな需要を満たすための展示でなく、一本筋の通った取り組みであることもまた知らせて欲しいものだと思いました。
 「今回はここがだめだったので次はこうします」、というその過程であるならば、珍しいから入れただけという姿勢と違ってはるかに意を汲み取れます。
 某園館はそういった苦情の多さで、貴種の飼育挑戦に及び腰になられたりもしたと聞きます。
 真摯に取り組む姿が見えるならばこういった心無い声もトーンダウンするでしょうし、支持する声も高まることでしょう。

 私はだから生き死にの問題は仕方ない、ただ次があるならそのために、試行錯誤の途上ならそれも知りたいのです。今回は、そういった一サメファン興味に応えていただけた発表でした。

 いつか訪れる奇跡の瞬間。
 水槽内で元気に泳ぎ回るサメの姿、それを望むサメファンがいないはずありません。

 次回は未定ですが、ヨシキリの飼育についての発表が濃厚です。

 

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